はじめに

「うちの子は勉強が苦手なんです」

「私は昔から数学が苦手です」

「勉強そのものが苦手だから、成績が上がりません」

私たちは普段、何気なく「勉強が苦手」という言葉を使います。

しかし、家庭教師として子どもの学習状況を詳しく見ていくと、本当に「勉強そのもの」が苦手なケースばかりではありません。

数学の計算はできるけれど、文章問題になると手が止まる。

英単語は覚えられるけれど、英文になると読めない。

授業では理解しているけれど、テストになると点が取れない。

家では問題が解けるのに、本番になると焦ってミスをする。

そもそも机に向かうまでに時間がかかる。

これらはすべて、

「勉強が苦手」

という一言で表現されることがあります。

しかし、原因はまったく違います。

だからこそ、

「勉強が苦手だから仕方がない」と考える前に、「何が苦手なのか」を具体的にすること

が重要です。

苦手の正体が分からなければ、対策も分かりません。

反対に、苦手を細かく分解できれば、

「ここなら直せそうだ」

という場所が見つかります。

今回は、「勉強が苦手」という言葉の中に何が隠れているのかを考えていきます。


1.「勉強が苦手」は原因ではなく結果かもしれない

「どうして成績が上がらないの?」

と聞いたとき、

「勉強が苦手だから」

と答える子どもがいます。

しかし、これは原因を説明しているようで、実はほとんど説明になっていません。

「数学が苦手」だけでは対策できない

たとえば、

「数学が苦手です」

という子どもがいたとします。

では、数学の何が苦手なのでしょうか。

計算でしょうか。

文章問題でしょうか。

図形でしょうか。

関数でしょうか。

公式を覚えることでしょうか。

問題文を読み取ることでしょうか。

それとも、以前習った内容が抜けているのでしょうか。

「数学が苦手」という状態をさらに細かく見ていくと、実際には、

「分数の計算でよく間違える」

「文章から式を作ることが難しい」

「グラフの読み方が分からない」

など、具体的な問題が見えてきます。

ここまで分かれば、対策を考えられます。

苦手を大きな言葉のままにしない

これは他の教科でも同じです。

「英語が苦手」

ではなく、

「単語を覚えていない」

「語順が理解できていない」

「be動詞と一般動詞を混同する」

「長文になると途中で意味が分からなくなる」

と分解します。

国語なら、

「漢字が苦手」

「語彙が少ない」

「文章の内容は分かるが、設問の意味を読み取れない」

「記述問題で何を書けばいいのか分からない」

などに分けられます。

苦手を具体的にするほど、改善方法も具体的になるのです。


2.「理解できない」のか「覚えていない」のかを区別する

勉強が苦手な原因を探すとき、特に重要なのが、

理解と記憶を分けて考えること

です。

同じ「問題が解けない」でも、原因は違います。

理解していないケース

たとえば数学で公式を覚えていても、

「なぜこの公式を使うのか」

が分かっていなければ、少し問題の形が変わっただけで解けなくなることがあります。

この場合、必要なのは暗記量を増やすことではありません。

考え方や仕組みを理解する必要があります。

理解しているけれど覚えていないケース

反対に、

「説明を聞けば意味は分かる」

という子でも、英単語や漢字、理科・社会の用語などを覚えていなければ、テストでは答えられません。

この場合は理解力ではなく、反復量や復習方法を見直す必要があります。

「分からない」と言っている子に何度も説明をしても、実は単に覚えていないだけなら効果は限られます。

反対に、仕組みを理解していない子に、

「とにかく覚えなさい」

と言っても苦しくなるだけです。

原因が違えば勉強方法も変わる

理解不足なら、

説明を聞く。

具体例を見る。

簡単な問題から考える。

図にしてみる。

といった学習が必要です。

記憶不足なら、

繰り返す。

時間を空けて確認する。

問題形式で思い出す。

間違えたものを重点的に覚える。

という学習が必要になります。

つまり、

「できない」という結果だけを見ず、その手前にある原因を見る

ことが大切なのです。


3.「できない」のではなく「やり方を知らない」こともある

勉強が苦手な子の中には、学習能力そのものより、

勉強の進め方を知らない

ケースがあります。

これは決して珍しいことではありません。

「勉強しなさい」と言われても何をすればいいか分からない

大人から、

「テストが近いから勉強しなさい」

と言われたとします。

勉強が得意な子なら、

「今日は数学のワークをやろう」

「明日は英単語を復習しよう」

「間違えたところをテスト前日に確認しよう」

と考えられるかもしれません。

しかし、勉強方法が身についていない子は、

「勉強しろと言われても、何をすればいいの?」

という状態になります。

とりあえず教科書を開く。

ノートを眺める。

ワークを最初から進める。

答えを写す。

そして時間だけが過ぎていく。

本人は机に向かっているので、

「勉強した」

という感覚があります。

しかし、テストに必要な力が十分身についていないことがあります。

勉強にも技術が必要

スポーツでは、練習方法を教えてもらいます。

楽器でも、指の使い方や練習方法を習います。

ところが勉強については、

「自分でやりなさい」

と言われることが少なくありません。

しかし、本来は勉強にも、

計画の立て方。

覚え方。

問題集の使い方。

復習のタイミング。

間違えた問題の直し方。

分からない問題への対処。

といった技術があります。

それを知らないまま、

「もっと勉強しなさい」

と言われても、同じ方法を長時間繰り返すだけになることがあります。

その場合、その子に必要なのは「もっと努力すること」ではありません。

正しい勉強の進め方を知ることです。


4.「勉強が苦手」という気持ちは経験から作られる

勉強の苦手意識は、生まれたときから持っているものではありません。

多くの場合、これまでの経験の積み重ねによって作られていきます。

「できなかった経験」が積み重なる

最初は、ほんの小さなつまずきだったかもしれません。

算数の分数が少し分からなかった。

英単語を覚えるのが遅かった。

漢字テストで低い点を取った。

その時点では、大きな問題ではありません。

しかし、分からないところを残したまま授業が進むと、次の内容も難しくなります。

テストの点数が下がります。

注意されることが増えます。

友達と比較するようになります。

すると、

「自分は勉強ができない」

と思い始めます。

「できない」と思うと行動も変わる

苦手意識が強くなると、勉強に対する行動にも影響します。

問題を見ただけで、

「無理」

と思う。

少し考えて分からなければ、

「やっぱりできない」

と諦める。

難しい問題を避ける。

勉強そのものから離れる。

すると、当然ながら学習量が減ります。

学習量が減れば、さらに分からないところが増えます。

そして、

「ほら、やっぱり自分は勉強が苦手だ」

という気持ちが強くなります。

つまり、

できない→苦手だと思う→勉強を避ける→さらにできなくなる

という循環が生まれることがあります。

小さな成功体験で流れを変える

この循環を変えるために必要なのは、いきなり難しい問題を解かせることではありません。

まず、

「できた」

という経験を作ることです。

簡単な問題でも構いません。

昨日できなかった計算ができた。

英単語を10個覚えられた。

ワークを一人で進められた。

前回よりミスが一つ減った。

こうした小さな変化を積み重ねます。

すると、

「もしかしたら自分にもできるかもしれない」

という感覚が少しずつ生まれます。

その気持ちが、次の行動につながっていきます。


5.「何が苦手なのか」が分かれば勉強は変えられる

「勉強が苦手」

という言葉は、とても大きな言葉です。

大きすぎるからこそ、本人も周囲も、

「どうすればいいのか分からない」

状態になりやすいのです。

そこで大切なのが、苦手を小さく分けることです。

まず5つの視点から確認する

「勉強が苦手」と感じている場合は、まず次のような視点から確認してみます。

① 知識が足りない

英単語、漢字、公式、用語など、必要な知識を覚えていない。

② 理解が足りない

言葉や公式は知っていても、意味や考え方を理解できていない。

③ 練習が足りない

理解はしているものの、自分一人で問題を解く練習が不足している。

④ 勉強方法が合っていない

読むだけ、写すだけなど、現在の方法では十分な学習効果が得られていない。

⑤ 苦手意識が強くなっている

「どうせできない」という気持ちが先に出て、問題に取り組む前から諦めている。

もちろん、実際にはこれらが複数重なっていることもあります。

だからこそ、一つずつ確認する必要があります。

家庭教師が見るのは「できない問題」だけではない

家庭教師が子どもの学習を見るとき、本当に知りたいのは、

「この問題を間違えた」

という事実だけではありません。

なぜ間違えたのか。

どこまでなら一人でできるのか。

説明すると理解できるのか。

翌週にも覚えているのか。

簡単な問題に戻れば解けるのか。

問題文の意味を理解できているのか。

途中で諦めていないか。

こうした部分を確認します。

たとえば数学の文章問題ができない子でも、計算そのものは完璧かもしれません。

その場合、

「数学全体が苦手」

なのではなく、

「文章から必要な情報を取り出し、式にする部分」

に課題がある可能性があります。

ここまで分かれば、練習する内容を絞ることができます。

苦手を具体的な言葉に変えてみる

家庭学習でも、

「数学が苦手」

で終わらせず、

「分数の計算で符号を間違えやすい」

「文章問題で式を作るところが難しい」

と表現してみてください。

「英語が苦手」

ではなく、

「単語は分かるけれど、語順が分からない」

と考えてみます。

「勉強が続かない」

ではなく、

「机に向かうまでに時間がかかる」

と考えます。

このように言葉を具体的にすると、

「では、何を練習すればいいのか」

が見えてきます。

おわりに

「勉強が苦手」という言葉を何度も使っていると、それが自分自身の性質のように感じられることがあります。

「自分は勉強が苦手な人間だ」

「昔からできないから仕方がない」

「どうせ頑張っても変わらない」

しかし、本当にそうでしょうか。

実際には、

覚えていないだけかもしれません。

以前の単元につまずきがあるだけかもしれません。

問題集の使い方を知らないだけかもしれません。

練習量が不足しているだけかもしれません。

一度の失敗から、苦手だと思い込んでいるだけかもしれません。

「勉強が苦手」という大きな言葉を、

「具体的に何ができていないのか」

という小さな問題に分けてみてください。

大きな問題のままでは、

「自分には無理」

と思ってしまいます。

しかし、

「英単語を覚える方法を変える」

「分数の計算だけ復習する」

「間違えた問題を翌日にもう一度解く」

というところまで小さくできれば、行動できます。

苦手は、一つの大きな壁ではありません。

小さなつまずきが、いくつか重なっていることがあります。

だから、その一つひとつを見つけていけばいいのです。

「勉強が苦手」と決めつけるのではなく、「何が苦手なのか」を見つける。

そこから、成績を変えるための具体的な学習が始まります。



実際の例はこちらから

② 「勉強が苦手」の正体を知る(実践編)

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