はじめに
何をやればいいか明確に分かっていて、それがどんなメリットがあるかを理解できれば・・・。
勉強しなさいって言われるけどさ。
うん。
まず、何やればいいか分からん!
それが分かればね・・・。
はじめに

「先生、今日は何をやればいいですか?」
家庭教師を始めたばかりの生徒から、よく聞く言葉です。
何を勉強するか。
どの教材を使うか。
何ページやるか。
何分勉強するか。
すべて先生に決めてもらう。
そして、言われたことはやる。
一見すると、きちんと勉強できているように見えます。
しかし、家庭教師がいない日は、
「何をすればいいか分からない」
となってしまうことがあります。
保護者から、
「勉強しなさい」
と言われても、
「何をやればいいの?」
と聞き返す。
そこで保護者が、
「数学のワークをやりなさい」
と決める。
すると今度は、
「何ページ?」
と聞く。
この状態では、勉強している本人ではなく、大人が学習の主導権を持っています。
もちろん、最初から全部自分で決める必要はありません。
勉強方法が分からない子には、大人の支援が必要です。
しかし、いつまでも大人がすべて決め続けていると、自分で勉強を進める練習ができません。
大切なのは、
「大人が決める勉強」から「自分で決める勉強」へ、少しずつ移していくこと。
今回は、家庭教師から指示されたことはできるものの、自分一人では何をすればいいか分からなかった生徒が、少しずつ自分の学習を自分で動かせるようになっていく様子をご紹介します。
「何をやればいいか分かりません」
ある日の授業。
私はいつものように生徒の隣に座りました。
しかし、教材を開きませんでした。
🔵 講師
「今日は何やろうか?」
生徒はすぐに答えました。
🔴 学習者
「分かりません。」
🔵 講師
「何か困っている教科は?」
🔴 学習者
「あります。」
🔵 講師
「何?」
🔴 学習者
「数学。」
🔵 講師
「じゃあ数学やる?」
🔴 学習者
「先生が決めてください。」
私は少し笑いました。
🔵 講師
「今日は君に決めてもらおうと思ってる。」
🔴 学習者
「えー。」
本当に困った顔をしています。
🔵 講師
「じゃあ、数学の何が困ってる?」
🔴 学習者
「分かりません。」
🔵 講師
「数学全部?」
🔴 学習者
「全部じゃないです。」
🔵 講師
「学校で最近何やってる?」
生徒は教科書を開きました。
🔴 学習者
「ここ。」
🔵 講師
「これはできる?」
🔴 学習者
「普通。」
🔵 講師
「これは?」
🔴 学習者
「ちょっと分からない。」
🔵 講師
「じゃあ今日は?」
生徒はようやく答えました。
🔴 学習者
「ここやります。」
🔵 講師
「決められたね。」
🔴 学習者
「ほとんど先生が聞いたからですけど。」
🔵 講師
「最初はそれでいいよ。」
問題を何問か解きました。
授業の終わりに、私は次の一週間について聞きました。
🔵 講師
「次の授業まで何する?」
また、生徒が困った顔をしました。
🔴 学習者
「先生が決めてください。」
🔵 講師
「じゃあ二つから選ぼう。」
私は選択肢を出しました。
A:数学のワークを3日やる
B:数学2日、英語1日やる
🔵 講師
「どっち?」
🔴 学習者
「B。」
🔵 講師
「どうして?」
🔴 学習者
「数学だけだと飽きそうだから。」
🔵 講師
「それも立派な理由だね。」
次に量を決めます。
🔵 講師
「数学は何ページ?」
🔴 学習者
「分かりません。」
🔵 講師
「1ページと5ページなら?」
🔴 学習者
「5ページは無理。」
🔵 講師
「じゃあ?」
🔴 学習者
「2ページくらい。」
🔵 講師
「英語は?」
🔴 学習者
「単語。」
🔵 講師
「何個?」
🔴 学習者
「10個。」
私はノートに書きました。
数学:週2日・2ページ
英語:週1日・単語10個
🔵 講師
「これ、誰が決めた?」
🔴 学習者
「先生と自分。」
🔵 講師
「そう。今日は半分ずつ。」
🔴 学習者
「そのうち全部自分で決めるんですか?」
🔵 講師
「できるようになったらね。」
生徒は少し不安そうでした。
🔴 学習者
「できるかな。」
🔵 講師
「最初から上手にできなくていいよ。」
🔴 学習者
「計画失敗したら?」
🔵 講師
「そのとき考えればいい。」
一週間後。
🔵 講師
「どうだった?」
🔴 学習者
「数学はできました。」
🔵 講師
「英語は?」
🔴 学習者
「やってません。」
🔵 講師
「どうして?」
🔴 学習者
「忘れました。」
私は怒りませんでした。
🔵 講師
「じゃあどうしたら忘れにくくなる?」
🔴 学習者
「分かりません。」
🔵 講師
「勉強する曜日を決めておく?」
🔴 学習者
「それなら忘れないかも。」
一緒に曜日を決めました。
月曜日は数学。
水曜日は英語。
金曜日は数学。
🔴 学習者
「できなかった英語は今日やりますか?」
🔵 講師
「君はどうしたい?」
少し考えて、
🔴 学習者
「今日やります。」
🔵 講師
「じゃあそうしよう。」
以前なら、私が、
「できなかったから今日やろう」
と決めていたでしょう。
今回は本人が決めました。
小さな違いです。
しかし、自分で勉強できるようになるためには、この小さな判断を積み重ねることが大切です。
「計画どおりにできない日もある」
数週間が経ちました。
生徒は以前より、自分で学習内容を決められるようになってきました。
ある日の授業。
🔵 講師
「来週までどうする?」
🔴 学習者
「数学3日、英語2日。」
私は少し驚きました。
🔵 講師
「結構やるね。」
🔴 学習者
「テスト近いので。」
🔵 講師
「一日どれくらい?」
🔴 学習者
「数学4ページ。英語は単語20個。」
🔵 講師
「本当にできそう?」
🔴 学習者
「できます。」
私はあえて止めませんでした。
🔵 講師
「じゃあやってみよう。」
一週間後。
生徒は少し暗い表情でやってきました。
🔵 講師
「どうだった?」
🔴 学習者
「全然できませんでした。」
🔵 講師
「どれくらい?」
🔴 学習者
「数学1日だけ。」
🔵 講師
「英語は?」
🔴 学習者
「一回。」
🔵 講師
「予定は?」
🔴 学習者
「数学3日、英語2日。」
🔵 講師
「結構違ったね。」
🔴 学習者
「やっぱり自分で決めるの無理です。」
ここは重要な場面でした。
自分で計画して、失敗した。
すると、
「自分にはできない」
と感じてしまいます。
しかし、自立した学習を身につけるために必要なのは、失敗しないことではありません。
失敗したあとに、計画を直すことです。
🔵 講師
「じゃあ、先生が全部決める形に戻す?」
生徒は少し考えました。
🔴 学習者
「……それも嫌です。」
🔵 講師
「じゃあ今回、何がダメだったか見よう。」
予定を確認しました。
数学4ページ。
英単語20個。
それを平日の夜に行う計画でした。
🔵 講師
「数学4ページ、どれくらい時間かかった?」
🔴 学習者
「40分くらい。」
🔵 講師
「普段何分くらいなら集中できる?」
🔴 学習者
「20分くらい。」
🔵 講師
「倍だね。」
🔴 学習者
「あ……。」
🔵 講師
「英単語20個は?」
🔴 学習者
「途中で嫌になりました。」
🔵 講師
「じゃあ、やる気がないから失敗した?」
生徒は少し考えました。
🔴 学習者
「量が多かった。」
🔵 講師
「そうかもしれないね。」
そこで計画を作り直しました。
数学は4ページから2ページ。
英単語は20個から10個。
🔵 講師
「これなら?」
🔴 学習者
「できそう。」
🔵 講師
「計画を小さくするのは負け?」
🔴 学習者
「違うんですか?」
🔵 講師
「続けられる形に直すだけ。」
🔴 学習者
「じゃあ、最初から少なくしてもいい?」
🔵 講師
「もちろん。」
翌週。
🔵 講師
「どうだった?」
🔴 学習者
「今週はできました。」
🔵 講師
「全部?」
🔴 学習者
「一日だけできなかった。」
🔵 講師
「その日はどうした?」
🔴 学習者
「次の日にやりました。」
🔵 講師
「全部追加した?」
🔴 学習者
「いや、数学1ページだけ追加しました。」
🔵 講師
「どうして?」
🔴 学習者
「2ページ全部追加すると、また多くなるから。」
私はうなずきました。
これは大きな変化です。
以前なら、
「できなかった。終わり。」
でした。
今は、
「できなかった。では、どう修正するか」
と考えています。
さらに数週間後。
授業の最初に私が、
🔵 講師
「今日は何やろうか?」
と聞くと、生徒はすぐに答えました。
🔴 学習者
「数学です。」
🔵 講師
「どこ?」
🔴 学習者
「学校で今やってるところ。」
🔵 講師
「どうして?」
🔴 学習者
「昨日宿題やったら、三問間違えたから。」
生徒はワークを開きました。
三問に印が付いています。
🔴 学習者
「一問目は計算ミスだと思います。」
🔵 講師
「じゃあこれは?」
🔴 学習者
「自分で直せそう。」
🔵 講師
「二問目は?」
🔴 学習者
「解説読んだけど分かりません。」
🔵 講師
「三問目は?」
🔴 学習者
「途中までは分かります。」
私は笑顔で言いました。
🔵 講師
「今日やること、全部自分で決まってるね。」
生徒は少し驚きました。
🔴 学習者
「あ、本当だ。」
家庭教師を始めた頃は、
「先生、今日は何をやればいいですか?」
と聞いていた生徒です。
それが今では、
自分で宿題をする。
間違いを見つける。
自分で直せる問題と、質問する問題を分ける。
そして家庭教師の授業で何を確認するかまで考える。
少しずつですが、学習の主導権が大人から本人へ移っていました。
その日の最後。
私はいつもの質問をしました。
🔵 講師
「来週まで何する?」
生徒はノートを開きました。
以前なら、私の顔を見て答えを待っていました。
しかし今回は違います。
🔴 学習者
「数学は火曜と金曜。」
自分で書き込みます。
🔴 学習者
「一回2ページ。」
🔵 講師
「英語は?」
🔴 学習者
「水曜日と土曜日。単語10個ずつ。」
🔵 講師
「他には?」
少し考えます。
🔴 学習者
「日曜日は空けときます。」
🔵 講師
「どうして?」
🔴 学習者
「できなかった日があったら、そこでやる。」
私は思わず笑顔になりました。
🔵 講師
「予備日まで作ったんだ。」
🔴 学習者
「前に失敗したので。」
🔵 講師
「なるほど。」
失敗した経験が、次の計画に生かされていました。
ところが、その翌週。
私は一つ気になることに気付きました。
学習記録を見ると、予定はかなり守れています。
数学もやっている。
英語もやっている。
質問も自分で用意できています。
一見すると、とても順調でした。
しかし、生徒は授業の途中でこんなことを言いました。
🔴 学習者
「先生、これで合ってますよね?」
🔵 講師
「何が?」
🔴 学習者
「勉強のやり方。」
🔵 講師
「どうして聞くの?」
🔴 学習者
「自分で決めてるけど、本当にこれでいいのかなって。」
その言葉を聞いて、私は気付きました。
「自分で決められるようになること」と、
「一人で全部抱え込むこと」
は違います。
私はノートを閉じて、生徒に聞きました。
🔵 講師
「自分で勉強できるようになったら、先生には何も聞いちゃいけないと思ってる?」
🔴 学習者
「ちょっと思ってました。」
🔵 講師
「どうして?」
🔴 学習者
「自分でやるって、全部自分でやることだと思ってたから。」
私は首を横に振りました。
🔵 講師
「それは違うよ。」
🔴 学習者
「違うんですか?」
🔵 講師
「自分で考えて、『ここは助けてもらった方がいい』と判断するのも、自分で勉強する力だよ。」
生徒は少し考え込んでいました。
そして、自分のノートをもう一度開きました。
🔴 学習者
「じゃあ先生、来週の計画、一回見てもらっていいですか?」
🔵 講師
「もちろん。」
🔴 学習者
「自分で作ってから見せます。」
🔵 講師
「それがいいね。」
生徒は自分で作った一週間の計画を私の前に置きました。
私はすぐに直すのではなく、まず本人がなぜその計画にしたのかを聞くことにしました。
「自分で決める」と「一人で抱える」は違う
私は、生徒が作った一週間の計画を見ました。
火曜日は数学。
水曜日は英語。
金曜日は数学。
土曜日は英語。
日曜日は予備日。
以前と比べれば、かなり現実的な計画になっています。
🔵 講師
「どうして月曜日は空けたの?」
🔴 学習者
「月曜日は部活で帰るのが遅いから。」
🔵 講師
「じゃあ火曜日に数学を入れた理由は?」
🔴 学習者
「次の日に数学の授業があるから。」
🔵 講師
「水曜日の英語は?」
🔴 学習者
「木曜日に単語テストがあるから。」
私はうなずきました。
🔵 講師
「ちゃんと理由があるね。」
生徒は少し安心した表情になりました。
🔴 学習者
「これで大丈夫ですか?」
🔵 講師
「先生はいいと思う。でも、一つ聞いていい?」
🔴 学習者
「はい。」
🔵 講師
「君自身はどう思う?」
生徒は少し考えました。
🔴 学習者
「前よりはできそうです。」
🔵 講師
「じゃあ、まずやってみよう。」
私は計画をほとんど直しませんでした。
以前なら、
「ここは数学にしよう」
「この日は英語の方がいい」
と私が修正していたでしょう。
しかし今回は、本人が自分の生活を考えて作っています。
完璧な計画でなくても構いません。
実際にやってみて、問題があれば直せばいいのです。
一週間後。
🔵 講師
「計画どうだった?」
🔴 学習者
「まあまあです。」
🔵 講師
「何点くらい?」
🔴 学習者
「80点。」
🔵 講師
「残り20点は?」
生徒は計画表を見ました。
🔴 学習者
「土曜日の英語ができませんでした。」
🔵 講師
「どうして?」
🔴 学習者
「出かけてたから。」
🔵 講師
「最初から予定は分かってた?」
🔴 学習者
「分かってました。」
🔵 講師
「じゃあ次は?」
🔴 学習者
「出かける日は入れない。」
🔵 講師
「それでも勉強したいなら?」
🔴 学習者
「朝にやるとか。」
🔵 講師
「いいね。」
生徒は自分で土曜日の横に書きました。
予定がある日は、時間まで考える。
そのあと、生徒が私に聞きました。
🔴 学習者
「先生、こういうのも自分で勉強するってことですか?」
🔵 講師
「どういうこと?」
🔴 学習者
「問題を解くことじゃなくて、いつやるか考えたりすること。」
🔵 講師
「もちろん。」
🔴 学習者
「勉強って、問題を解くことだけじゃないんですね。」
🔵 講師
「自分で続けるなら、そこまで含めて勉強だね。」
それから、生徒の学習記録には少しずつ変化が出てきました。
以前は、
数学2ページ
英単語10個
と、やることだけを書いていました。
今では、
数学2ページ → 文章問題で時間がかかった
英単語10個 → 8個は覚えた、2個はもう一度
理科 → 分からない問題に?を付けた
と、自分なりの振り返りを書くようになっています。
ある日の授業。
🔴 学習者
「先生、数学の時間減らしてもいいですか?」
🔵 講師
「どうして?」
🔴 学習者
「今、数学より英語の方がやばいです。」
🔵 講師
「どうしてそう思った?」
🔴 学習者
「数学は学校のワークが結構できるようになったけど、英語は単語テストがずっと悪いから。」
🔵 講師
「じゃあ、どうする?」
🔴 学習者
「数学を週2回から1回にして、英語を1回増やします。」
🔵 講師
「やってみよう。」
以前は、決められた計画を守ることが「正解」だと思っていました。
しかし今は違います。
自分の状態を見て、必要なら変える。
これも、自分で勉強するために必要な力です。
ところが、順調に見えていた頃、少し大きな失敗がありました。
定期テストの一週間前です。
生徒は、
「今回は自分で計画します」
と言いました。
私は任せました。
しかし、テスト三日前。
学習状況を確認すると、社会のワークがかなり残っていました。
🔵 講師
「社会、どれくらい残ってる?」
生徒は黙ってページをめくりました。
🔴 学習者
「結構あります。」
🔵 講師
「どうしてこうなった?」
🔴 学習者
「数学ばっかりやってました。」
🔵 講師
「社会は?」
🔴 学習者
「あとでやればいいと思ってました。」
🔵 講師
「間に合いそう?」
生徒は首を横に振りました。
🔴 学習者
「無理かも。」
以前なら、ここで私が新しい計画を全部作っていたかもしれません。
しかし、今回は聞きました。
🔵 講師
「どうする?」
🔴 学習者
「……分かりません。」
🔵 講師
「じゃあ一緒に整理しよう。」
私は答えを出すのではなく、質問しました。
🔵 講師
「残り何日?」
🔴 学習者
「三日。」
🔵 講師
「社会のワークは何ページ?」
🔴 学習者
「18ページ。」
🔵 講師
「全部同じように時間がかかる?」
生徒は確認しました。
🔴 学習者
「ここは簡単です。」
🔵 講師
「こっちは?」
🔴 学習者
「ここは苦手。」
🔵 講師
「じゃあ、優先するなら?」
🔴 学習者
「苦手なところ。」
🔵 講師
「全部完璧に終わらせるのと、テストに必要なところを優先するのと、今ならどっち?」
🔴 学習者
「必要なところ。」
生徒は自分で計画を書き直しました。
今日。
社会の苦手範囲。
明日。
残りの重要問題。
前日。
間違えたところと用語確認。
🔴 学習者
「最初からこうしておけばよかった。」
🔵 講師
「そうだね。」
🔴 学習者
「先生、怒らないんですか?」
🔵 講師
「何を?」
🔴 学習者
「計画失敗したから。」
🔵 講師
「失敗したことより、今どう直すかの方が大事だから。」
生徒は計画表を見ながら、静かにうなずきました。
「先生に言われなくても、次に何をするか分かる」
テストが終わりました。
結果は、すべての教科が大きく上がったわけではありません。
数学は少し上がりました。
英語はほぼ同じ。
社会は、本人が期待していたほど取れませんでした。
生徒は社会の答案を見ながら言いました。
🔴 学習者
「もっと早くやればよかった。」
以前なら、
「点数悪かった。」
で終わっていたかもしれません。
しかし今回は違いました。
🔵 講師
「次はどうする?」
🔴 学習者
「社会を後回しにしない。」
🔵 講師
「具体的には?」
🔴 学習者
「テスト一週間前じゃなくて、範囲が出たらワーク始めます。」
🔵 講師
「誰が決めた?」
生徒は少し笑いました。
🔴 学習者
「自分です。」
私は最初の頃に使っていた学習記録を見せました。
そこには、
数学:先生が指定
英語:先生が指定
と書かれています。
🔵 講師
「覚えてる?」
🔴 学習者
「覚えてます。」
🔵 講師
「この頃、毎回何て聞いてた?」
生徒は笑いました。
🔴 学習者
「『先生、何やればいいですか?』。」
🔵 講師
「今は?」
🔴 学習者
「あんまり聞かないですね。」
🔵 講師
「どうして?」
少し考えて答えました。
🔴 学習者
「自分で何やればいいか、だいたい分かるから。」
🔵 講師
「じゃあ先生、もういらない?」
私は少し意地悪に聞いてみました。
🔴 学習者
「いや、いります。」
二人で笑いました。
🔵 講師
「何に使う?」
🔴 学習者
「分からない問題を聞く。」
🔵 講師
「他は?」
🔴 学習者
「自分で作った計画を見てもらう。」
🔵 講師
「他には?」
🔴 学習者
「勉強のやり方が合ってるか相談する。」
🔵 講師
「それでいい。」
自分で勉強できるようになるということは、誰にも頼らなくなることではありません。
必要なときには助けを求める。
ただし、
何も考えずに、
「先生、どうすればいいですか?」
と全部を預けるのではありません。
まず自分で考える。
やってみる。
分からないところを見つける。
そして、
「ここを手伝ってほしい」
と言える。
それが、自立した学習に近い状態です。
数週間後。
私は授業開始時に、あえて何も言いませんでした。
生徒が教材を出します。
数学のワーク。
英語のノート。
学校でもらったプリント。
そして自分の学習記録。
🔴 学習者
「今日は最初に数学の質問やっていいですか?」
🔵 講師
「もちろん。」
🔴 学習者
「そのあと英語の単語テストしてほしいです。」
🔵 講師
「分かった。」
🔴 学習者
「最後に来週の計画見てください。」
🔵 講師
「もう作ったの?」
🔴 学習者
「はい。」
私は笑いました。
🔵 講師
「先生、今日何も決めてないね。」
生徒も笑いました。
🔴 学習者
「本当だ。」
授業の最後。
生徒が来週の計画を見せました。
私は一か所だけ気になるところを聞きました。
🔵 講師
「木曜日、結構多くない?」
🔴 学習者
「木曜日は部活ないので大丈夫です。」
🔵 講師
「なるほど。」
🔴 学習者
「もし無理だったら、土曜日に回します。」
🔵 講師
「予備まで考えてるんだ。」
🔴 学習者
「前に失敗したので。」
また、その言葉が出ました。
「前に失敗したので。」
以前なら失敗は、
「できなかった証拠」
でした。
今は、
次の方法を考えるための材料
になっています。
その日の帰り際。
生徒が教材を片付けながら言いました。
🔴 学習者
「先生、自分で勉強するって、もっと難しいと思ってました。」
🔵 講師
「どんな感じだと思ってた?」
🔴 学習者
「毎日ちゃんと計画どおりやって、全部自分で分かって、誰にも聞かない感じ。」
🔵 講師
「今は?」
🔴 学習者
「全然違いました。」
🔵 講師
「どう違う?」
🔴 学習者
「できなかったら変えればいいし、分からなかったら聞けばいい。」
🔵 講師
「うん。」
🔴 学習者
「でも、最初に自分で考える。」
私はうなずきました。
🔵 講師
「それができれば十分だよ。」
おわりに
「自分で勉強できる子」と聞くと、
毎日決まった時間に机へ向かう。
完璧な計画を立てる。
誰にも言われず勉強する。
分からない問題も自分で解決する。
そんな子を想像するかもしれません。
しかし、本当に大切なのは、完璧に一人で勉強することではありません。
自分の状況を見て、
「今、何をすればいいのか」
を考えられることです。
そして、実際にやってみる。
うまくいかなければ理由を考える。
量が多すぎたなら減らす。
時間が合わなかったなら変える。
苦手教科を後回しにしたなら、次は早めに始める。
分からない問題があれば、先生や家庭教師に質問する。
この繰り返しが、自分で学ぶ力を育てていきます。
最初から全部を子どもに任せる必要はありません。
最初は大人が決める。
次は二つの中から選んでもらう。
その次は自分で決めてもらう。
決めたことを実行してみる。
結果を一緒に振り返る。
そして、少しずつ大人が手を離していく。
大切なのは、
「できるようになった部分まで、大人がいつまでも代わりにやらないこと」
です。
子どもが自分で決められるようになったなら、決めてもらう。
自分で計画できるなら、まず作ってもらう。
自分で間違いを見つけられるなら、本人に確認してもらう。
必要なところだけ、大人が支えます。
そして失敗したときにも、すぐに主導権を取り戻さないことです。
「やっぱりあなたには無理だから、今度から私が決める」
ではなく、
「今回はどこがうまくいかなかった?」
「次はどう変える?」
と考えてもらう。
失敗から立て直す経験も、自分で勉強できるようになるための大切な練習だからです。
今回の生徒も、最初から自分で勉強できたわけではありません。
「今日は何をやればいいですか?」
から始まりました。
そこから、
選ぶ。
決める。
やってみる。
失敗する。
修正する。
質問する。
振り返る。
という経験を少しずつ積み重ねました。
そして今では、
「今日はこれをやります。」
「ここが分からないので教えてください。」
「来週はこうします。」
と言えるようになっています。
家庭教師や保護者の役割は、子どもの代わりに学習を管理し続けることではありません。
最初は支えながら、少しずつ学習のハンドルを本人へ渡していくことです。
最初は大人と一緒に握る。
少しずつ本人が握る部分を増やす。
進む方向を間違えたら、一緒に確認する。
そしてまた本人に任せる。
その繰り返しの先に、
「誰かに勉強させられる子」から「自分で学び方を考えられる子」への変化
が生まれていくのです。
理論編はこちらから
⑰ 自分で勉強できる子に育てる方法(理論編)
はじめに 「何も言わなくても、自分から勉強してくれたらいいのに。」 子どもの家庭学習について、そう思ったことのある保護者の方は少なくないでしょう。 「宿題やった?」 「テスト勉強は?」 「スマホばかり見ていないで勉強しな […]


