はじめに

「授業では分かったのに、テストになると解けない」

「先生の説明を聞いていると理解できるのに、一人で問題を解こうとすると手が止まる」

「問題集の解説を読めば納得できるのに、同じような問題でまた間違えてしまう」

こうした経験は、勉強が苦手な子どもだけに起こるものではありません。

普段から真面目に授業を受け、宿題にも取り組んでいる子どもにも見られます。

本人は決して勉強を怠けているわけではありません。

むしろ、授業中には先生の説明をしっかり聞き、問題集の解説も丁寧に読んでいます。

それなのに、テストでは思うような点数が取れない。

その原因の一つとして考えられるのが、「分かったつもり」になっていることです。

ただし、ここでいう「分かったつもり」とは、子どもが適当に勉強しているという意味ではありません。

説明を聞いたときには本当に理解できたと感じていても、その知識を自分一人で使える段階まで身につけられていないことがあるのです。

勉強には、「説明を理解すること」と「自分で問題を解けること」の間に、大きな違いがあります。

今回は、この違いがなぜ生まれるのか、そして「分かったつもり」を「本当にできる」へ変えるためには何が必要なのかを考えていきます。


1.「分かる」と「できる」は同じではない

勉強で最も見落とされやすいことの一つが、「理解できた」という感覚と、実際に問題を解く力の違いです。

説明を聞いて分かるのは、学習の途中段階

例えば、数学の方程式を学習している場面を考えてみましょう。

先生が黒板に問題を書き、途中式を一つずつ説明します。

「まず、こちらの項を移項します」

「次に、両辺を整理します」

「最後に、係数で割ります」

説明を聞いている子どもは、その流れを理解できます。

先生の説明にも納得しています。

そして、

「分かった」

と感じます。

しかし、翌日、同じような方程式を一人で解こうとすると、最初の一行が書けないことがあります。

なぜでしょうか。

授業中は、先生が解く順番を示してくれていたからです。

どこに注目すればよいのか。

次に何をすればよいのか。

どの計算を使えばよいのか。

その判断を先生が助けてくれていました。

一方、家庭学習やテストでは、その判断を自分自身で行わなければなりません。

つまり、説明を理解できたことと、自分で解き方を選んで実行できることは、同じではないのです。

「見れば分かる」と「何も見ずにできる」の違い

これは数学だけの問題ではありません。

英語でも、文法の説明を読めば理解できるのに、自分で英文を作れないことがあります。

理科でも、実験の説明を聞けば納得できるのに、結果の理由を自分の言葉で説明できないことがあります。

社会でも、教科書を読めば内容を理解できるのに、テストで用語や出来事の関係を思い出せないことがあります。

この違いを考えるとき、重要なのは次の三つの段階です。

① 説明を聞けば理解できる

② ヒントがあれば問題を解ける

③ 何も見ずに自分で解ける

もちろん、学習内容によっては、さらに応用する力も必要です。

しかし、まずはこの三つを区別するだけでも、勉強の進め方は大きく変わります。

「説明を聞いて分かった」で終わるのではなく、「自分一人でもできるか」を確認することが大切です。


2.なぜ「分かったつもり」が生まれるのか

「分かったつもり」は、決して珍しい現象ではありません。

むしろ、学習の中で自然に起こりやすいものです。

解説を読むと簡単に感じる

問題集の解説には、答えにたどり着くまでの手順が整理されています。

途中で迷った部分や、間違った考え方は省略されていることもあります。

そのため、解説を読むと、

「なるほど、こうすればよかったのか」

と感じます。

しかし、実際に自分で解くときには、どの方法を使うべきかを自分で判断する必要があります。

解説を読むことは、完成した道順を確認するようなものです。

一方、自分で問題を解くことは、道順を思い出しながら目的地へ向かうことに近いでしょう。

道順を見て納得できたからといって、必ず一人で目的地へ行けるとは限りません。

答えを見ながらの勉強は理解度を錯覚しやすい

例えば、英単語の学習を考えてみます。

英単語と日本語訳が並んでいる一覧表を眺めていると、何度も見た単語には見覚えが生まれます。

その結果、

「もう覚えた」

と感じることがあります。

しかし、日本語訳を隠して英単語だけを見せると、意味を思い出せないことがあります。

これは、見覚えがあることと、自分で思い出せることが違うためです。

テストでは、多くの場合、必要な知識を自分で思い出さなければなりません。

したがって、見ながら覚えるだけでなく、隠して思い出す練習が必要になります。

ノートを写すだけでも起こる

学校の授業や家庭学習で、板書や解説を丁寧にノートへ写すことがあります。

もちろん、ノートを取ること自体が悪いわけではありません。

しかし、内容を十分に考えずに写しているだけでは、理解したかどうかを確認できません。

ノートが完成すると、勉強が進んだように感じます。

けれども、ノートを閉じた途端に内容を説明できなくなるなら、まだ学習が十分ではない可能性があります。

大切なのは、ノートを作ることを目的にしないことです。

ノートは、理解を助けたり、後から復習したりするための道具なのです。


3.「分かったつもり」が成績に影響する理由

「分かったつもり」が問題になるのは、本人が学習の不足に気づきにくいことです。

できない問題が、そのまま残ってしまう

例えば、数学の問題集を20問解いたとします。

最初に自力で正解できたのは12問でした。

残りの8問は間違えましたが、解説を読んで理解できました。

ここで、

「20問全部分かった」

と考えて勉強を終えてしまうことがあります。

しかし、実際に自分で解けることを確認できたのは、最初の12問だけです。

残りの8問は、解説を読んだ段階にとどまっています。

この8問を解き直さずにテストを迎えれば、同じような問題で再び間違える可能性があります。

勉強時間と実力の間に差が生まれる

「分かったつもり」の勉強が続くと、本人はかなり勉強しているつもりになります。

実際に、机に向かっている時間は長いかもしれません。

しかし、理解を確認する練習や、自力で解く練習が不足していると、勉強時間ほどには問題を解く力が伸びないことがあります。

すると、

「こんなに勉強しているのに、なぜ点数が上がらないのだろう」

という悩みにつながります。

ここでさらに勉強時間だけを増やしても、同じ方法を繰り返すなら、改善が限定的になる可能性があります。

必要なのは、勉強量だけではなく、学習の確認方法を変えることです。

応用問題でつまずきやすくなる

基本問題では、教科書や問題集で見たことのある形が出題されます。

そのため、解き方を何となく覚えているだけでも正解できる場合があります。

しかし、応用問題では、問題の条件を整理し、使う知識や方法を自分で選ぶ必要があります。

解き方の意味を十分に理解していなければ、問題の形が変わっただけで対応できなくなることがあります。

「基本問題はできるのに応用問題ができない」

という場合にも、単純に難しい問題の練習量が不足しているとは限りません。

基本問題をどの程度理解し、自分で説明できるかを確認することが重要です。


4.「分かったつもり」を見抜くための確認方法

では、家庭学習で「分かったつもり」を防ぐには、どうすればよいのでしょうか。

重要なのは、学習の途中に「本当にできるか」を確かめる場面を作ることです。

解説を閉じて、もう一度解く

最も取り入れやすい方法の一つが、解説を確認した後に、何も見ずに解き直すことです。

数学なら、途中式を最初から自分で書いてみます。

英語なら、文法の例文を見ずに英文を作ってみます。

理科や社会なら、教科書を閉じて重要な内容を説明してみます。

ここでできなかったとしても、落ち込む必要はありません。

むしろ、どこがまだ身についていないのかを発見できたことに意味があります。

「なぜそうなるのか」を説明する

問題に正解できた場合でも、理解を確認したいことがあります。

例えば数学で、

「どうしてこの式になるの?」

と聞いてみます。

公式を使って正解できても、その公式を使う理由を説明できない場合があります。

そのときは、図や具体例を使って考え直してみます。

ただし、すべての問題で長い説明をする必要はありません。

特に重要な問題や、何度も間違える問題を中心に確認するとよいでしょう。

少し形を変えた問題に挑戦する

同じ問題を繰り返すと、答えや手順そのものを覚えてしまうことがあります。

そこで、数字や条件を少し変えた類題を解いてみます。

例えば方程式なら、係数や符号を変える。

英語なら、主語や時制を変える。

理科なら、実験条件を変える。

こうした問題でも解けるなら、解き方を理解している可能性が高まります。

反対に、少し変わるだけで解けなくなるなら、どこで判断に迷っているのかを確認します。

時間を空けて再確認する

その場で解けた問題でも、数日後には解けなくなることがあります。

そのため、学習直後だけでなく、時間を空けて確認することも大切です。

例えば、

学習した当日に解き直す。

翌日、もう一度確認する。

数日後、類題を解く。

といった方法です。

毎回すべての問題をやり直す必要はありません。

間違えた問題や重要な問題を中心に、無理のない範囲で復習を組み込みます。


5.家庭教師が「分かったつもり」を見逃さないために

家庭教師の指導では、説明が終わった後の確認が重要になります。

「分かった?」だけでは十分ではない

子どもに説明した後、

「分かった?」

と聞くことがあります。

すると、

「分かった」

という答えが返ってきます。

しかし、その返事だけで理解できたと判断することはできません。

子ども自身が理解できたと思っていても、実際には解き方を再現できないことがあるからです。

また、先生に何度も説明してもらうことを申し訳なく感じて、分からないまま「分かった」と答える子もいます。

そのため、理解の確認では、言葉だけでなく実際の行動を見る必要があります。

最後は本人に解いてもらう

例えば、数学の問題を説明した後、同じ考え方を使う問題を本人に解いてもらいます。

途中で手が止まったら、すぐに答えを教えるのではなく、

「どこまでは分かる?」

「次に何をすればよさそう?」

と確認します。

そうすることで、理解できている部分と、まだ支援が必要な部分を見つけやすくなります。

説明する時間だけでなく、本人が考え、手を動かす時間を確保することが重要です。

「分からない」と言える環境を作る

もう一つ大切なのが、子どもが安心して「分からない」と言えることです。

分からないことを責められると、子どもは分かったふりをするようになる場合があります。

それでは、つまずきを見つけることが難しくなります。

家庭教師は、子どもが間違えたときに、

「ここがまだ分からなかったんだね」

「じゃあ、この部分をもう一度確認しよう」

と受け止めることが大切です。

間違えることは、指導が失敗したという意味ではありません。

どこを練習すればよいかを知るための情報でもあります。

「分かった」と言わせることが指導の目的ではなく、「自分でできる」状態へ導くことが目的なのです。


おわりに

「分かったつもり」は、勉強している子どもなら誰にでも起こり得るものです。

授業を真面目に聞いている。

問題集の解説を丁寧に読んでいる。

ノートをきれいにまとめている。

それでも、テストで問題が解けないことがあります。

そのようなときは、本人の努力を否定するのではなく、勉強のどの段階で止まっているのかを確認してみてください。

説明を聞けば理解できるのか。

ヒントがあれば解けるのか。

何も見ずに一人で解けるのか。

少し形を変えた問題でも対応できるのか。

数日後にも思い出せるのか。

このように段階を分けると、次に必要な練習が見えてきます。

家庭学習では、問題集を進めることだけを目標にしないでください。

解説を読んだら、閉じてもう一度解いてみる。

覚えたつもりの知識は、隠して思い出してみる。

理解した内容は、自分の言葉で説明してみる。

そして、時間を空けてもう一度確認する。

こうした小さな習慣が、「分かったつもり」を減らす助けになります。

成績を伸ばすために必要なのは、ただ多くの問題を解くことではありません。

「分かった」を「できる」に変えること。

さらに、

「今日できた」を「後日もできる」に変えること。

そこまで確認して初めて、学んだ内容が自分の力になっているかを判断しやすくなります。

勉強しているのに成績が上がらないときは、勉強時間だけでなく、「本当に自分でできるようになっているか」を見直してみてください。

その確認が、家庭学習の質を変える大切な一歩になります。



実際の例はこちらから

④「分かったつもり」が成績を止める(実践編)

事例プロフィール ※以下は学習支援の考え方を説明するための創作モデルケースです。特定の生徒の実際の指導実績を示すものではありません。 はじめに 「先生の説明を聞けば分かるんです」 「でも、テストになると解けないんです」 […]

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