はじめに

目の前の生徒がどこでつまずき、なぜそこで止まり、何を学び直せば先へ進めるのかを、一緒に探すことができます。

今までの成績がひどいから・・・。

上がらん?

きっとそうやん・・・。

ま、やってみるか♪

はじめに

「先生、僕って数学が苦手なんですよね。」

家庭教師として生徒と向き合っていると、こうした言葉を聞くことがあります。

しかし、「数学が苦手」という言葉だけでは、本当の原因は分かりません。

計算が苦手なのか。

文章問題が苦手なのか。

公式を覚えていないのか。

以前に習った内容が抜けているのか。

それとも、理解はできているのに自信がなく、問題を見るだけで諦めてしまっているのか。

同じ「数学が苦手」という言葉の中にも、まったく異なる原因が隠れています。

家庭教師の大きな強みは、一人の生徒が問題を解く様子をじっくり見ながら、その原因を探せることです。

今回は、「自分は数学ができない」と思い込んでいた生徒との授業を通して、家庭教師がどのように「本当のつまずき」を見つけていくのかをご紹介します。



僕は数学が苦手だから

初めて数学の授業をした日のことです。

私はまず、生徒に最近返された定期テストを見せてもらいました。

点数だけを確認するのではなく、一問ずつ答案を見ていきます。

🔴 学習者

「数学、本当に苦手なんです。」

🔵 講師

「そう思っているんだね。」

🔴 学習者

「はい。小学校の頃からあまり得意じゃありませんでした。」

🔵 講師

「じゃあ今日は、どれくらい苦手なのか一緒に調べてみようか。」

🔴 学習者

「調べる?」

生徒は不思議そうな顔をしました。

🔴 学習者

「点数を見れば分かるんじゃないですか?」

🔵 講師

「点数は結果だからね。先生が知りたいのは、どうしてその点数になったのかなんだ。」

私は答案を机の中央に置きました。

🔵 講師

「例えば、この問題。」

🔴 学習者

「間違っています。」

🔵 講師

「そうだね。でも途中式を見てみよう。」

生徒は自分の答案をのぞき込みました。

🔵 講師

「ここまでは合っているよ。」

🔴 学習者

「あ、本当だ。」

🔵 講師

「最後の計算で符号を間違えているだけだね。」

🔴 学習者

「でも、間違いは間違いですよね。」

🔵 講師

「もちろんテストではそうなる。でも、勉強するときは違う。」

🔴 学習者

「どう違うんですか?」

🔵 講師

「最初から分からなかったのか、最後にミスをしたのかでは、直し方が全然違うんだ。」

生徒は答案をじっと見ました。


私は別の問題を指しました。

🔵 講師

「これは?」

🔴 学習者

「全然分かりませんでした。」

🔵 講師

「どこから分からなかった?」

🔴 学習者

「どこから……?」

🔵 講師

「問題文の意味?」

🔴 学習者

「意味は分かります。」

🔵 講師

「使う公式は?」

🔴 学習者

「それも分かります。」

🔵 講師

「じゃあ、どこで止まった?」

生徒は少し考えてから答えました。

🔴 学習者

「式をどう作ればいいか分かりませんでした。」

🔵 講師

「なるほど。じゃあ、公式を知らないわけではないんだね。」

🔴 学習者

「はい。」

🔵 講師

「数学全部が分からないわけでもない。」

🔴 学習者

「……そうですね。」

私は答案の横に小さくメモを書きました。

「式を作るところで止まる」

そして、最初の問題の横には、

「考え方○・計算ミス」

と書きました。

🔴 学習者

「先生、何をしているんですか?」

🔵 講師

「君の『数学が苦手』の中身を調べている。」

🔴 学習者

「中身……。」

🔵 講師

「数学が全部苦手なのか。それとも、苦手なところがいくつかあるだけなのか。それを知りたいんだ。」

生徒は少し考えたあと、もう一度答案を見始めました。


分からないところまで戻ってみよう

答案を確認していると、ある特徴が見えてきました。

方程式の基本問題はある程度解けています。

しかし、分数が入った途端に正答率が大きく下がっていました。

私は簡単な問題を一問、ノートに書きました。

🔵 講師

「これを計算してみて。」

🔴 学習者

「え? これですか?」

🔵 講師

「うん。」

🔴 学習者

「これ、中学校の問題じゃないですよね。」

🔵 講師

「小学校で習った内容だね。」

🔴 学習者

「そんなところまで戻るんですか?」

🔵 講師

「まずやってみよう。」

生徒は少し不満そうでしたが、計算を始めました。

ところが途中で手が止まりました。

🔴 学習者

「あれ……。」

🔵 講師

「どうした?」

🔴 学習者

「分母が違うときって……。」

その瞬間、生徒自身も何かに気付いたようでした。

🔴 学習者

「もしかして、僕、分数が苦手なんですか?」

🔵 講師

「可能性はあるね。」

🔴 学習者

「でも今、方程式を習っているんですよ。」

🔵 講師

「だからこそ戻るんだよ。」

私はノートに簡単な階段を書きました。

一番下に「分数」。

その上に「文字式」。

さらにその上に「方程式」。

🔵 講師

「勉強って、こんな感じなんだ。」

🔴 学習者

「階段ですか?」

🔵 講師

「そう。下の段が不安定なまま上へ行こうとすると、どうなると思う?」

🔴 学習者

「難しくなる……。」

🔵 講師

「今の君が、まさにそうなのかもしれない。」

生徒はしばらく階段の絵を見つめていました。

🔴 学習者

「じゃあ、方程式が苦手なんじゃなくて……。」

🔵 講師

「その前の分数で止まっている可能性がある。」

🔴 学習者

「そんなこと、自分では全然分かりませんでした。」


そこから、分数の計算を一緒に確認しました。

最初は少し恥ずかしそうにしていた生徒も、何問か解くうちに表情が変わっていきました。

🔴 学習者

「あ、これなら分かります。」

🔵 講師

「じゃあ、次はこれ。」

🔴 学習者

「これは……通分してからですよね?」

🔵 講師

「そう。」

🔴 学習者

「できた。」

🔵 講師

「じゃあ、さっき間違えた方程式に戻ってみようか。」

🔴 学習者

「もう戻るんですか?」

🔵 講師

「やってみよう。」

先ほどと同じ問題をもう一度出しました。

生徒は問題を読み、途中式を書き始めます。

先ほど手が止まった分数の計算も、今度はゆっくりと進んでいきました。

数分後。

🔴 学習者

「……できました。」

🔵 講師

「答えを確認してみよう。」

正解でした。

生徒は答案と自分のノートを何度も見比べました。

🔴 学習者

「先生。」

🔵 講師

「うん?」

🔴 学習者

「僕、方程式ができなかったわけじゃなかったんですね。」

🔵 講師

「そうかもしれないね。」

🔴 学習者

「分数がちゃんとできていなかったから、その先も分からなくなっていた。」

🔵 講師

「今、自分で原因を言えたね。」

生徒は少し笑いました。

🔴 学習者

「なんか……ちょっと安心しました。」

🔵 講師

「どうして?」

🔴 学習者

「数学が全部できないと思っていたからです。」

その言葉を聞いて、私は一つ大切な変化が始まったと感じました。

「自分は数学が苦手だ」という漠然とした不安が、

「分数を復習すれば、もう少しできるかもしれない」

という具体的な課題に変わったのです。

原因が分からないと、人は「自分には能力がない」と考えてしまうことがあります。

しかし、原因が見つかれば、次に何をすればよいのかが見えてきます。

その日の授業の最後、生徒は自分から分数の問題を数問選び、ノートに印を付けました。

🔴 学習者

「先生、次までにこれをやっておきます。」

🔵 講師

「どうしてその問題を選んだの?」

🔴 学習者

「今の僕には、ここが必要だからです。」

数時間前まで「数学が苦手だから仕方がない」と話していた生徒が、自分に必要な勉強を自分で選び始めていました。

そして次の授業では、この小さな変化が、思っていた以上の違いとなって表れ始めました。





先生、前より分かるようになりました

一週間後。

授業を始めようとすると、生徒が自分からノートを差し出してきました。

🔴 学習者

「先生、見てください。」

🔵 講師

「おっ、やってきたね。」

前回、一緒に選んだ分数の問題がすべて解いてありました。

ただ問題を解いただけではありません。

間違えた問題には印が付けられ、その横には自分なりのメモまで書かれていました。

「通分を忘れた」

「約分できる」

「符号に注意」

私は一ページずつ確認しました。

🔵 講師

「これは全部、自分で書いたの?」

🔴 学習者

「はい。」

🔵 講師

「どうして書こうと思ったの?」

🔴 学習者

「また同じところで間違えそうだったからです。」

🔵 講師

「いいね。じゃあ、間違えた問題をもう一度やってみようか。」

🔴 学習者

「はい。」

以前なら、「またやるんですか?」と言っていた生徒が、この日はすぐに鉛筆を持ちました。

一問目。

正解。

二問目。

これも正解。

三問目では途中で手が止まりました。

私はすぐには声をかけませんでした。

しばらく待っていると、生徒は自分のノートを数ページ戻りました。

🔴 学習者

「あ、そうか。」

もう一度計算を始めます。

今度は正解でした。

🔵 講師

「今、先生は何も言わなかったね。」

🔴 学習者

「はい。」

🔵 講師

「どうやって分かったの?」

🔴 学習者

「前に同じような問題を間違えていたのを思い出しました。」

私は笑顔でうなずきました。

🔵 講師

「それが勉強なんだよ。」

🔴 学習者

「勉強?」

🔵 講師

「分からないたびに誰かから答えを教えてもらうんじゃなくて、自分で戻って、自分で見つけられるようになること。」

生徒は自分のノートを見ながら、静かにうなずきました。


そこで私は、前回苦戦していた方程式の問題を出してみることにしました。

🔵 講師

「じゃあ、これをやってみよう。」

問題を見た生徒が言いました。

🔴 学習者

「あ、分数が入ってる。」

以前なら、その時点で嫌そうな表情をしていた問題です。

しかし今回は違いました。

🔴 学習者

「でも、これならできるかもしれません。」

🔵 講師

「やってみよう。」

生徒は途中式を一行ずつ書き始めました。

急がず、分母を確認します。

通分し、計算を進め、最後までたどり着きました。

🔴 学習者

「できました。」

🔵 講師

「自信は?」

🔴 学習者

「あります。」

答えを確認しました。

正解です。

🔴 学習者

「よし!」

小さく拳を握りました。

🔵 講師

「前回、この問題を見たときは何て言っていたか覚えてる?」

🔴 学習者

「『分かりません』って言ってました。」

🔵 講師

「何が変わった?」

生徒は少し考えました。

🔴 学習者

「分数をやり直したからです。」

🔵 講師

「そうだね。」

🔴 学習者

「先生。」

🔵 講師

「何?」

🔴 学習者

「勉強って、分からなくなったところまで戻ればいいんですね。」

その言葉は、とても大きな意味を持っていました。

「分からない=自分にはできない」

ではなく、

「分からない=どこかに戻る場所がある」

と考えられるようになったからです。


さらに数週間後、学校で数学の小テストがありました。

授業の日、生徒は玄関から戻ってくると、すぐに一枚の答案を見せてくれました。

🔴 学習者

「先生、上がりました。」

前回より点数が上がっていました。

しかし私は、点数より先に答案の中身を確認しました。

🔵 講師

「ここ、全部途中式を書いたんだね。」

🔴 学習者

「はい。」

🔵 講師

「前は頭の中だけで計算していたよね。」

🔴 学習者

「それでよく間違えていたので。」

🔵 講師

「自分で直したんだ。」

🔴 学習者

「先生に言われたからですよ。」

🔵 講師

「最初はね。でも今回、テスト中に先生はいなかったよ。」

生徒は少し考えました。

🔴 学習者

「確かに。」

🔵 講師

「つまり、自分でできるようになったんだよ。」

生徒は答案を見ながら、少しうれしそうに笑いました。


家庭教師って、答えを教える人じゃないんですね

その日の授業の最後、私は生徒に聞いてみました。

🔵 講師

「最初に会ったとき、自分のことを何て言っていたか覚えてる?」

🔴 学習者

「『数学が苦手』です。」

🔵 講師

「今もそう思う?」

少し考えてから、生徒は答えました。

🔴 学習者

「苦手ではあると思います。」

私は笑いました。

🔵 講師

「そこは変わらないんだ。」

🔴 学習者

「でも、前とはちょっと違います。」

🔵 講師

「どう違う?」

🔴 学習者

「前は、『数学が苦手だからできない』って思っていました。」

🔵 講師

「うん。」

🔴 学習者

「今は、できない問題があったら、『どこが分かっていないんだろう』って考えるようになりました。」

私は大きくうなずきました。

これは点数が上がったこと以上に大きな変化です。

勉強に対する考え方そのものが変わり始めていました。


🔴 学習者

「先生、一つ聞いていいですか?」

🔵 講師

「もちろん。」

🔴 学習者

「家庭教師って、もっと問題の答えをたくさん教えてくれる人だと思っていました。」

🔵 講師

「実際は違った?」

🔴 学習者

「先生、あんまり答えを教えてくれません。」

思わず二人で笑いました。

🔵 講師

「そうかもしれないね。」

🔴 学習者

「僕が分からないって言っても、『どこまで分かる?』とか『前に似た問題なかった?』とか聞くじゃないですか。」

🔵 講師

「うん。」

🔴 学習者

「最初は、普通に教えてくれればいいのにって思ってました。」

🔵 講師

「そうだったんだ。」

🔴 学習者

「でも今は、ちょっと分かります。」

🔵 講師

「何が?」

🔴 学習者

「先生が全部教えたら、先生がいないと解けなくなるからですよね。」

私は少し驚きました。

生徒自身が、そこまで気付いていたからです。

🔵 講師

「その通りだよ。」

🔴 学習者

「じゃあ家庭教師って、答えを教える人じゃないんですね。」

🔵 講師

「答えも教えるよ。必要なときはね。」

🔴 学習者

「でも、それだけじゃない。」

🔵 講師

「そう。先生がいなくても、自分で勉強できるようにすることの方が大切だと思ってる。」

生徒は少し考え込んでいました。


私は白紙のノートを一枚開きました。

🔵 講師

「例えば、先生が毎回全部答えを教えたとする。」

🔴 学習者

「はい。」

🔵 講師

「その場では問題が解けるよね。」

🔴 学習者

「はい。」

🔵 講師

「でも、テストのとき先生はいない。」

🔴 学習者

「あ……。」

🔵 講師

「だから授業では、『先生と一緒ならできる』で終わったらいけないんだ。」

私はノートに三つの段階を書きました。

「先生と一緒ならできる」

「少しヒントがあればできる」

「一人でできる」

🔵 講師

「家庭教師の授業では、この一番下まで持っていきたい。」

🔴 学習者

「一人でできる。」

🔵 講師

「そう。」

🔴 学習者

「じゃあ先生、僕が質問したときに、すぐ答えを言わないのも……。」

🔵 講師

「自分で考えられそうなら、少し待っている。」

🔴 学習者

「わざとだったんですね。」

🔵 講師

「そういうこと。」

生徒は納得したように笑いました。


その後、私は新しい問題を一問出しました。

今までにそのままの形では解いたことがない問題です。

生徒はしばらく考えました。

鉛筆が止まります。

以前なら、すぐに、

「分かりません。」

と言っていた場面です。

しかし、その日は違いました。

ノートを数ページ戻り、以前解いた問題を探し始めました。

🔵 講師

「何を探しているの?」

🔴 学習者

「前に似た問題があった気がするんです。」

ページをめくります。

🔴 学習者

「あった。」

その問題と新しい問題を見比べながら、もう一度考え始めました。

数分後。

🔴 学習者

「先生、たぶん分かりました。」

🔵 講師

「やってみよう。」

途中式を書き、計算を進めます。

最後まで解き終わりました。

正解でした。

🔴 学習者

「できた……。」

🔵 講師

「先生、何か教えた?」

生徒は笑いました。

🔴 学習者

「何も教えてません。」

🔵 講師

「じゃあ、誰が解いた?」

🔴 学習者

「僕です。」

その「僕です」という言葉には、最初の授業では見られなかった自信がありました。


おわりに

家庭教師が成績を伸ばせる理由は、単に一対一で問題を教えられるからではありません。

目の前の生徒がどこでつまずき、なぜそこで止まり、何を学び直せば先へ進めるのかを、一緒に探すことができるからです。

「数学が苦手」という一言だけでは、本当の原因は分かりません。

分数が十分に身についていないのかもしれません。

問題文の読み方に課題があるのかもしれません。

計算を急ぎすぎているのかもしれません。

あるいは、「どうせ自分にはできない」という思い込みが、最初の一歩を止めているのかもしれません。

一人ひとり原因が違うからこそ、必要な勉強も違います。

そして、本当に大切なのは、家庭教師が問題を解いてあげることではありません。

最初は「先生と一緒ならできる」。

やがて「少しヒントがあればできる」。

そして最後には「一人でできる」。

その変化をつくることです。

家庭教師がいなければ勉強できない状態をつくるのではなく、家庭教師との学習を通して、少しずつ自分で学べるようになっていく。

「分からないから無理」ではなく、

「どこまで戻れば分かるだろう。」

「前に似た問題はなかっただろうか。」

「自分はどこで間違えたのだろう。」

そうやって自分自身に問いかけられるようになったとき、子どもの学び方は大きく変わり始めます。

点数が上がることは、もちろん大切です。

しかし、その点数を生み出す土台にあるのは、自分で考え、自分で課題を見つけ、自分で一歩先へ進もうとする力です。

家庭教師だからこそ、一人の子どもの小さな変化を見逃さず、その力が育つまで寄り添うことができます。

それが、家庭教師が成績を伸ばせる大きな理由の一つなのです。



理論編はこちらから

⑦ 家庭教師が成績を伸ばせる理由(理論編)

はじめに 「家庭教師をつければ、本当に成績は上がるのでしょうか。」 家庭教師を検討している保護者の方であれば、一度は考えることではないでしょうか。 学校には先生がいます。 塾へ行けば、そこにも講師がいます。 参考書や問題 […]

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