はじめに

「うちの子は、やればできると思うんです。でも、なかなか勉強を始めないんです」

家庭教師として保護者の方とお話ししていると、このような相談を受けることがあります。

テスト前になれば勉強する。

宿題も、提出期限が近づけば何とか終わらせる。

決して勉強する力がないわけではありません。

それでも普段はなかなか机に向かわず、気がつけば一日が終わっている。

こうした子どもは少なくありません。

そのとき、大人はつい、

「もっとやる気を出してほしい」

「本気になればできるのに」

と考えてしまいます。

しかし、長い目で成績を伸ばしていくために本当に必要なのは、毎日強いやる気を持ち続けることではありません。

大切なのは、やる気がある日も、あまりない日も、一定の学習を続けられる仕組みをつくることです。

一日だけ三時間勉強することより、毎日20分、30分でも机に向かう。

一度だけ完璧に覚えようとするより、時間を空けながら何度も復習する。

実際、時間を空けて復習する「分散学習」は長期的な定着につながりやすく、学んだ内容を自分の頭から思い出す「検索練習」も、記憶の定着や応用につながる学習方略として紹介されています。

こうした小さな学習を日常生活の中に組み込むことが、学習習慣の第一歩です。

そして学習習慣は、目の前のテストのためだけに身につけるものではありません。

受験、資格取得、そして社会に出てから新しいことを学ぶときにも、自分を支えてくれる力になっていきます。


成績は「テスト前の頑張り」だけではつくられない

テストで思うような点数が取れなかったとき、

「次はもっと勉強しよう」

と決意する子はたくさんいます。

そしてテスト一週間前になると、一日二時間、三時間と勉強する。

ところが、テストが終わると勉強時間が一気に減る。

次のテストが近づくと、また慌てて勉強を始める。

この繰り返しになってしまうことがあります。

もちろん、テスト前に集中して勉強すること自体が悪いわけではありません。

問題は、それだけに頼ることです。

特に数学や英語は、それまでに習った内容の上に新しい内容が積み重なっていきます。

数学なら、正負の数や文字式が曖昧なまま方程式へ進むと、理解しにくくなります。

英語でも、be動詞と一般動詞の違いが十分に理解できていない状態で、さらに複雑な文法を学べば混乱しやすくなります。

小さな「分からない」を何か月も放置してしまうと、やがて、

「何が分からないのかも分からない」

という状態になることがあります。

だからこそ、日頃から少しずつ確認することが大切なのです。


一日30分でも、一年では大きな差になる

「毎日勉強する」と聞くと、何時間も机に向かわなければならないと思うかもしれません。

しかし、最初から長時間勉強する必要はありません。

例えば、一日30分ならどうでしょう。

一日だけを見れば、わずか30分です。

しかし一週間なら3時間30分。

30日なら15時間。

一年間続けば、単純計算で約182時間になります。

一日だけを見ていると、小さな差です。

しかし、それが半年、一年と積み重なれば、大きな違いになります。

反対に、

「30分しかできないから今日はやめておこう」

と考えてしまえば、その30分は積み重なりません。

学習習慣の強さは、小さな時間を長期間積み重ねられることにあります。


やる気を「始める条件」にしない

勉強が続かない子に、

「どうして昨日は勉強しなかったの?」

と聞くと、

「やる気が出なかった」

という答えが返ってくることがあります。

これは珍しいことではありません。

大人でも毎日同じようにやる気があるわけではありません。

疲れている日もあれば、気分が乗らない日もあります。

だから、

「やる気が出たら勉強する」

という方法だけでは、学習は安定しにくくなります。

そこで大切になるのが、生活の流れと勉強を結びつけることです。

例えば、

「学校から帰って30分休んだら宿題を始める」

「夕食の前に数学を二問解く」

「お風呂に入る前に英単語を10個確認する」

というように決めます。

すると毎回、

「今日は勉強しようかな、どうしようかな」

と考える必要が少なくなります。

勉強を特別な行動ではなく、日常生活の一部にしていくのです。


最初の目標は「長く勉強すること」ではない

学習習慣がない子に、

「今日から毎日二時間勉強しよう」

と言っても、続かないことがあります。

一日目はできる。

二日目も頑張れる。

三日目になると疲れてくる。

そして一日できなかっただけで、

「やっぱり自分には無理だ」

となってしまう。

これでは習慣になる前に終わってしまいます。

最初に必要なのは、勉強時間を最大化することではありません。

勉強を始める回数を増やすことです。

毎日10分でも構いません。

数学を二問だけでもいい。

英単語を10個確認するだけでもいい。

「これならできる」

というところから始めます。

10分が当たり前になれば、15分にする。

15分が続くようになったら、20分にする。

このように少しずつ増やしていけばよいのです。


「普通の日でもできる量」を基準にする

学習計画を立てるときには、やる気があるため、大きな目標を立てやすくなります。

「毎日三時間勉強する」

「問題集を毎日10ページ進める」

「英単語を毎日100個覚える」

しかし、本当に重要なのは、

頑張った日だけ達成できる計画ではなく、普通の日でも続けられる計画をつくることです。

学校で疲れて帰ってきた日。

宿題が多かった日。

少し気分が乗らない日。

そんな日でも、

「これくらいならできる」

と思える最低ラインを決めておきます。

例えば、

「最低10分」

「最低二問」

「最低10単語」

としておく。

余裕がある日は、それ以上やればいいのです。

最低ラインを低くすることは、怠けることではありません。

継続するための工夫です。


一日できなかったからといって失敗ではない

習慣をつくろうとすると、

「毎日絶対にやらなければならない」

と考えてしまうことがあります。

しかし、現実の生活では予定どおりにいかない日があります。

学校行事で疲れることもあります。

家族の予定が入ることもあります。

宿題がいつもより多いこともあります。

大切なのは、一日も休まないことではありません。

できなかったあとに戻れることです。

月曜日から木曜日までできた。

金曜日はできなかった。

それなら土曜日からまた始めればいい。

ところが、

「金曜日にできなかったから、もう計画は失敗だ」

と考えて土曜日も日曜日もやめてしまえば、本当に習慣が途切れてしまいます。

習慣づくりには、「再開する力」も必要なのです。


「復習すること」を習慣にする

毎日机に向かえるようになったら、次は学習の中身を考えていきます。

そこで特に大切なのが復習です。

学校で習ったときには分かった。

先生の説明を聞いたときにも理解できた。

ところが数日後、一人で問題を解こうとするとできない。

これはよくあります。

そこで、

その日に習ったことを少し確認する。

数日後にもう一度解く。

時間を空けて再び思い出す。

という学習を取り入れます。

時間を空けて復習する分散学習や、答えを見る前に自分で思い出そうとする検索練習は、認知心理学に基づく有効な学習方略として文部科学省の資料でも取り上げられています。

毎日長時間勉強することだけが「良い習慣」なのではありません。

覚える、忘れる、もう一度思い出す。

この流れを日常の学習に取り入れることも重要なのです。


間違い直しが習慣になると勉強の質が変わる

もう一つ身につけたいのが、「間違い直し」の習慣です。

問題集を三ページやった。

20問解いた。

一時間勉強した。

これだけを見ると、しっかり勉強したように感じます。

しかし、20問中5問を間違え、その5問をそのままにしていたらどうでしょう。

できない問題は、できないまま残っています。

勉強の目的は、問題集を終わらせることではありません。

できなかったことを、できるようにすることです。

間違えたら、

「なぜ間違えたのか」

を確認する。

解説を読む。

もう一度自分で解く。

そして数日後に、何も見ずにもう一度挑戦する。

この流れを習慣にすると、勉強の質が大きく変わります。


「何時間やったか」から「何ができるようになったか」へ

学習習慣ができ始めたら、次の段階へ進みます。

それは、

「今日は何時間勉強したか」

だけではなく、

「今日は何ができるようになったか」

を見ることです。

例えば、

「今日は一時間勉強した」

だけではなく、

「連立方程式を一人で解けるようになった」

「昨日間違えた英単語を10個覚え直した」

「理科の苦手だった問題を三問解き直した」

と振り返ります。

すると、自分の成長が見えやすくなります。

さらに、

「明日は何をすればいいか」

も分かるようになります。

最初は「毎日机に向かう」ことが目標でも構いません。

習慣が安定してきたら、「学習の中身」を考える段階へ進んでいくのです。


学習習慣は「自分で考える力」につながる

学習習慣が身につくと、少しずつ子どもの行動が変わっていきます。

最初は、

「今日は数学をやりなさい」

と言われていた子が、

「明日は英単語のテストだから、今日は英語をやろう」

と考える。

さらに、

「数学のこの単元が苦手だから、今日はここを復習しよう」

と自分で決める。

ここまでくると、単に毎日勉強しているだけではありません。

自分の状態を見て、自分に必要な学習を選べるようになっているのです。

家庭教師が学習習慣を支える場合も、最終的に目指したいのは、

「先生に言われたからやる」

という状態ではありません。

自分で考え、自分で始め、自分で修正できるようになることです。


保護者は「監督」ではなく「環境を整える人」になる

子どもの学習習慣をつくろうとすると、保護者が毎日、

「勉強したの?」

「早くやりなさい」

「まだ終わってないの?」

と確認する状態になることがあります。

しかし、これが長く続くと、親子ともに疲れてしまいます。

そこで大切なのは、毎日注意することよりも、勉強を始めやすい環境を一緒につくることです。

何時から始めるかを決める。

最初に取り組む教材を決める。

教材をすぐ取り出せる場所に置く。

できた日は本人が記録する。

こうした仕組みをつくります。

そして、できたときには、

「今日は30分も勉強したの? すごい」

だけではなく、

「自分から始められたね」

「昨日間違えたところをやり直していたね」

と、行動の変化を具体的に見てあげることも大切です。


学習習慣は「自分は続けられる」という自信をつくる

勉強が苦手な子の中には、

「自分は何をやっても続かない」

と思っている子もいます。

その子にいきなり大きな目標を与えても、

「どうせまたできない」

と思ってしまうかもしれません。

だから小さく始めます。

一週間続いた。

二週間続いた。

一か月続いた。

その事実そのものが成功体験になります。

「自分にも続けられた」

という経験ができると、次の挑戦への心理的な壁が少し低くなります。

これはテストの点数とは別の、とても大切な成長です。


受験になってから突然習慣をつくるのは難しい

受験勉強は、数日間だけ頑張れば終わるものではありません。

何か月にもわたって勉強を続ける必要があります。

普段ほとんど家庭学習をしていなかった子が、

「今日から受験生だから毎日三時間」

と急に変えるのは簡単ではありません。

勉強内容だけではなく、

机に向かう。

計画する。

復習する。

間違いを直す。

分からないことを調べる。

こうした行動そのものに慣れていないからです。

一方、一日20分でも30分でも家庭学習を続けてきた子には、「毎日学ぶ」という土台があります。

受験が近づけば、その時間を少しずつ増やしていくことができます。

だから学習習慣は、受験直前につくるものではありません。

日頃の小さな家庭学習の中で育てておくものなのです。


学習習慣は学校を卒業しても残る

学校を卒業したら、もう勉強する必要がないわけではありません。

社会に出ても、新しいことを学ぶ機会はあります。

仕事に必要な資格を取る。

新しい技術を覚える。

パソコンの使い方を学ぶ。

転職や仕事の幅を広げるために勉強する。

そのとき必要になるのも、

「必要なことを少しずつ続ける力」

です。

学生時代に、

毎日少しずつ進める。

間違えたらやり直す。

計画が崩れたら修正する。

分からなければ調べる。

という経験をしていれば、それを別の学びにも応用できます。

学習習慣とは、学校のテストだけに使う技術ではありません。

一生使える「学び方」の基礎なのです。


学習習慣が未来の選択肢を増やす

「学習習慣が未来を変える」というと、

「毎日勉強すれば、必ず良い学校へ行ける」

という意味に聞こえるかもしれません。

そうではありません。

未来にはさまざまな道があります。

進学する人もいます。

資格を取る人もいます。

専門的な技術を身につける人もいます。

仕事をしながら新しいことに挑戦する人もいます。

大切なのは、将来、

「これをやってみたい」

と思ったときに、

「じゃあ、今日から少しずつ勉強してみよう」

と動けることです。

学習習慣があるから未来が決まるのではありません。

学習習慣があることで、自分の未来を自分で広げられる可能性が高まるのです。


おわりに

学習習慣をつくるために、最初から特別なことをする必要はありません。

一日10分でもいい。

数学を二問解くだけでもいい。

英単語を10個確認するだけでもいい。

大切なのは、

「今日は少しだけやる」

を積み重ねることです。

そして、できなかった日があっても終わりではありません。

また次の日に戻ればいい。

習慣ができてきたら、復習する。

間違いを直す。

何ができるようになったか振り返る。

自分に必要な勉強を自分で考える。

そうやって少しずつ学習の質を高めていきます。

今日の10分だけを見れば、小さなことに感じるでしょう。

しかし、その10分を何か月も、何年も積み重ねる経験の中で、子どもは単に知識を増やしているだけではありません。

「自分は必要なことを少しずつ続けられる」

という力を身につけています。

その力があれば、これから先、何か新しいことを学びたいと思ったときにも、最初の一歩を踏み出しやすくなります。

未来を変えるのは、ある日突然始める大きな努力だけではありません。

今日の一問。

今日の10分。

今日の小さな積み重ね。

その繰り返しが、学力を育て、自信を育て、そして将来の選択肢を少しずつ広げていくのです。

です。



実際の例はこちらから

⑧ 学習習慣が未来を変える(実践編)

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