はじめに
学校の授業と家庭学習は、同じ「勉強」ではありますが、担っている役割はまったく違います。
今日は学校で勉強したから家ではやらんくてもいい?
そういうわけには・・・。
なんで?
家庭学習をしっかりとやっておかないと忘れてしまうからね・・・。
はじめに

「学校で授業を受けているのに、どうして家でも勉強しないといけないの?」
家庭教師を始めたばかりの生徒から、この質問を受けることがあります。
毎日学校へ行き、授業を受け、宿題も出される。
それだけでも十分頑張っているように感じるでしょう。
しかし、家庭教師として多くの生徒を見てきた経験から言えることがあります。
学校の授業と家庭学習は、同じ「勉強」ではありますが、担っている役割はまったく違います。
学校は「学び始める場所」。
家庭学習は「自分の力に変える場所」。
この違いに気付き、家庭学習の意味を理解した生徒は、勉強への向き合い方が大きく変わっていきます。
今回は、そんな一人の生徒との授業をご紹介します。
「学校でやっているから十分じゃない?」
授業が始まると、生徒は学校の宿題を机に置きました。
🔴 学習者
「先生、今日は宿題だけ見てもらえますか?」
🔵 講師
「もちろん。でも、そのあと少し話をしよう。」
宿題は思っていたより順調に進みました。
基本問題もよく理解できています。
私は宿題を閉じながら尋ねました。
🔵 講師
「家では宿題以外の勉強はしている?」
🔴 学習者
「していません。」
🔵 講師
「どうして?」
🔴 学習者
「学校で勉強しているからです。」
私はその答えを聞いて、ゆっくりとうなずきました。
🔵 講師
「なるほど。その考え方の子は意外と多いよ。」
🔴 学習者
「だって、学校で先生が教えてくれるじゃないですか。」
🔵 講師
「そうだね。」
🔴 学習者
「だから家では宿題だけやればいいと思っています。」
私は少し笑いながら、教科書を開きました。
🔵 講師
「じゃあ、一つ質問してもいい?」
🔴 学習者
「はい。」
🔵 講師
「今日の学校の数学で習った公式、説明できる?」
生徒は少し考えました。
🔴 学習者
「えっと……。」
しばらく沈黙が続きます。
🔴 学習者
「授業では分かったんですけど……。」
🔵 講師
「今は思い出せない?」
🔴 学習者
「はい。」
私は責めることなく笑顔で言いました。
🔵 講師
「実は、それが普通なんだよ。」
私は白紙を一枚取り出し、大きく二つの円を書きました。
片方には「学校」、もう片方には「家庭学習」と書きます。
🔵 講師
「この二つは同じ勉強に見えるけれど、仕事が違うんだ。」
🔴 学習者
「仕事?」
🔵 講師
「学校は『初めて知る場所』。」
もう一方の円を指差しました。
🔵 講師
「家庭学習は『自分でできるようにする場所』。」
生徒はじっと図を見つめています。
🔴 学習者
「そんなふうに考えたことありませんでした。」
「授業で分かる」と「自分でできる」は違う
私はその日に学校で習ったばかりの問題を一問選びました。
🔵 講師
「先生の説明なしで解いてみよう。」
🔴 学習者
「はい。」
生徒は問題を読み始めました。
しかし、数分後に手が止まります。
🔴 学習者
「あれ……。」
🔵 講師
「どうした?」
🔴 学習者
「授業ではできたと思ったんですけど……。」
🔵 講師
「どこで止まった?」
🔴 学習者
「公式までは思い出せます。でも、どこで使えばいいか分かりません。」
私はすぐに答えは教えませんでした。
🔵 講師
「じゃあ、授業では先生が何をしていた?」
🔴 学習者
「黒板で順番に説明していました。」
🔵 講師
「今日はその先生がいない。」
🔴 学習者
「だから止まったんですね。」
🔵 講師
「そう。ここが家庭学習なんだ。」
生徒は少し驚いたような表情を見せました。
🔴 学習者
「家庭学習って、宿題を終わらせることじゃなかったんですね。」
🔵 講師
「もちろん宿題も大切。でも、本当の目的は違う。」
私はノートを指差しました。
🔵 講師
「先生がいなくても解けるようになること。」
その言葉を聞いた生徒は、ゆっくりとうなずきました。
その後、私は答えを教える代わりに質問を続けました。
🔵 講師
「まず問題で聞かれていることは?」
🔴 学習者
「○○を求めることです。」
🔵 講師
「使えそうな公式は?」
🔴 学習者
「これです。」
🔵 講師
「じゃあ、その公式を使うために必要な数字は?」
少しずつ、生徒は自分で考え始めます。
数分後、最後まで解き切ることができました。
🔴 学習者
「先生、できました!」
🔵 講師
「先生が答えを言わなくてもできたね。」
🔴 学習者
「はい。」
🔵 講師
「これが家庭学習で育てたい力なんだ。」
生徒はうれしそうにノートを見返していました。
授業で「分かった」と思うことと、自分一人で「できる」ことの違いを、初めて実感した瞬間でした。
「学校の授業が前より分かる」
前回の授業から二週間後。
生徒は玄関を開けるなり、少し興奮した様子で話しかけてきました。
🔴 学習者
「先生、この前の数学の授業、すごく分かりました!」
🔵 講師
「おっ、それはうれしいね。何が変わったんだろう?」
🔴 学習者
「先生と一緒に復習した単元だったんです。」
私は笑顔でうなずきました。
🔵 講師
「授業ではどんな感じだった?」
🔴 学習者
「前までは先生の話を聞くだけで終わっていました。」
🔵 講師
「今回は?」
🔴 学習者
「『これ、家でやった問題だ』って思ったんです。」
生徒は身ぶりを交えながら話を続けます。
🔴 学習者
「だから先生が何を説明しているのかが前よりよく分かりました。」
🔵 講師
「なるほど。」
🔴 学習者
「今までは授業についていくので精一杯だったんです。」
少し照れながら笑います。
🔴 学習者
「でも今回は、『ここは前にも間違えたところだ』って思いながら聞けました。」
私はノートを開きながら言いました。
🔵 講師
「それが学校と家庭学習がつながったということなんだ。」
その日の授業では、学校で新しく習った単元を確認しました。
🔵 講師
「今日は学校で何を習ったの?」
🔴 学習者
「一次関数です。」
🔵 講師
「難しかった?」
🔴 学習者
「少し。でも前みたいに『分からない』では終わりませんでした。」
🔵 講師
「どうして?」
🔴 学習者
「家で復習すればできるようになるって思えたからです。」
私はその言葉に大きくうなずきました。
授業で完璧に理解しようと焦るのではなく、家庭学習で理解を深めるという考え方が、少しずつ身についてきたのです。
「学校と家は一つの勉強だった」
それから一か月後。
定期テストが終わり、授業ではテストの振り返りを行いました。
以前より点数は上がっていましたが、それ以上に印象的だったのは、生徒自身の振り返り方でした。
🔵 講師
「今回のテストで一番良かったことは何だと思う?」
🔴 学習者
「授業が前より楽しくなりました。」
🔵 講師
「点数じゃないんだね。」
🔴 学習者
「もちろん点数もうれしいです。でも、一番変わったのは授業です。」
私は続きを促しました。
🔵 講師
「どんなふうに?」
🔴 学習者
「先生が説明していることが、前より頭に入ってくるんです。」
🔵 講師
「どうしてだと思う?」
🔴 学習者
「家で復習しているからです。」
少し考えながら、生徒は続けました。
🔴 学習者
「前は学校と家の勉強を別々に考えていました。」
🔵 講師
「今は?」
🔴 学習者
「学校で習って、家で練習して、また学校で理解が深まる。その繰り返しなんですね。」
私は笑顔で答えました。
🔵 講師
「まさにその通り。」
生徒はノートを閉じながら言いました。
🔴 学習者
「先生、学校だけでもダメだし、家だけでもダメなんですね。」
🔵 講師
「うん。それぞれに役割がある。」
🔴 学習者
「学校は新しいことを教えてくれる場所。」
🔵 講師
「そうだね。」
🔴 学習者
「家は、それを自分でできるようにする場所。」
🔵 講師
「その考え方が身につけば、これから先も勉強は変わっていくよ。」
帰り際、生徒は笑顔で教材をカバンにしまいました。
🔴 学習者
「先生、前は宿題を終わらせることが勉強だと思っていました。」
少し間を置いて、力強く続けます。
🔴 学習者
「でも今は違います。家で勉強する時間は、『先生がいなくてもできる自分になる時間』なんですね。」
その言葉を聞いた瞬間、私は家庭教師として何よりもうれしく感じました。
勉強の本当の意味を、生徒自身の言葉で語れるようになっていたからです。
おわりに
学校と家庭学習は、同じ「勉強」でありながら、それぞれ異なる役割を持っています。
学校は、新しい知識や考え方と出会う場所。
家庭学習は、その知識を何度も使い、自分の力へと変えていく場所です。
そして家庭教師は、その二つをつなぎ、一人ひとりの理解度や学習ペースに合わせて、「どこを復習すればよいか」「どのように学べばよいか」を一緒に考える存在です。
学力は、一度の授業で身につくものではありません。
学校で学び、家庭で繰り返し、また学校で理解を深める。
この積み重ねが、確かな学力と「自ら学ぶ力」を育てていきます。
理論編はこちらから
⑥ 学校と家庭学習の役割の違い(理論編)
はじめに 「学校で勉強しているのだから、家では宿題だけやれば十分ではないですか?」 保護者の方から、このような質問を受けることがあります。 確かに、学校では毎日授業が行われ、先生が教科書を使って学習を進めています。 しか […]


